PC(プレキャストコンクリート)と現場打ちコンクリートは何が違う?|RC住宅の工法選びの基礎知識

鉄筋コンクリート住宅(RC造)といっても、つくり方(工法)には2つの方式があります。

  • PC(プレキャスト)工法
  • 現場打ちコンクリート工法

どちらも同じ「鉄筋+コンクリート」で家をつくりますが、
施工のプロセスが異なるため、性能・デザイン性・コスト・仕上がりに差が出ます。

どちらが良い悪いではなく、
家づくりの目的に合う工法を選ぶことが大切です。


1. PC工法(プレキャストコンクリート)とは

概要

PC工法は、工場でコンクリート部材(壁・床など)をあらかじめ製造し、現場で組み立てる方式です。
住宅メーカーのパルコンなどが代表例です。

メリット

  • 品質が安定しやすい
    乾燥管理・型枠精度・養生が工場内で統制されるため、仕上がりムラが少ない。
  • 工期が短縮できる
    現場作業量が減るため、完成までが早い。
  • 雨や気温など現場環境の影響を受けにくい

デメリット

  • パネル寸法に制約がある
    → 設計の自由度が限定される
  • 輸送・クレーン作業が必要
    → 敷地が狭い都市部では採用しにくい場合がある。
  • 工法自体がメーカー仕様に依存
    → デザインに“既製品感”が出ることがある。

向いているケース

  • 敷地が広い
  • シンプルな形状の住宅
  • 工期短縮を優先したい場合
  • メーカー仕様に抵抗がない場合

2. 現場打ちコンクリート工法とは

概要

現場で型枠を組み、鉄筋を組み、現場で生コンを流して固める方式
一般的な RC住宅・RCマンション・公共建築はこの方式です。

メリット

  • 設計の自由度が非常に高い
    中庭、地下、異形プラン、大開口など、多様な建築表現が可能。
  • 壁厚・鉄筋量など性能を細かく設計調整できる
    遮音性・耐震性・断熱性を住宅用途に最適化できる。
  • 意匠的な質感表現(コンクリート打放し・連続壁面など)が得意。

デメリット

  • 施工品質が“現場の技術力”に直結する
    会社選びが非常に重要。
  • 養生・打設・型枠管理に手間がかかり、工期がPCより長い
  • 天候や現場条件により品質管理が難しい場面もある

向いているケース

  • 注文住宅としての自由設計を求める場合
  • 静けさ・耐震性・躯体精度を重視する場合
  • 都市部の変形地・狭小地
  • 建築デザインを重視する場合

3. PCと現場打ちはどちらが優れている?【結論】

比較項目PC工法現場打ちRC
品質のバラツキ小さい(工場管理)現場の技術力次第
工期短い長め
設計自由度限定される非常に高い
遮音・耐震標準化されやすい住宅に合わせて最適化可能
敷地条件への対応力輸送・レッカー制約あり変形地・狭小地に強い

公平な結論

  • 「シンプル・標準仕様・工期短縮」→ PC工法が向く
  • 「環境に合わせた家づくり・静けさ・デザイン性」→ 現場打ちが向く

重要なのは、

“RC造”は材料が同じでも、設計と施工の技術で性能が変わる

という事実です。


高級住宅において、PCと現場打ちRCはどちらが合うのか?

結論から言う。

高級住宅(注文住宅・一邸一邸設計)の場合は、基本的に「現場打ちRC造」の方が適切。

理由は単純で、高級住宅は、土地に合わせた空間設計・光の取り込み・プライバシー性・素材感のコントロールが求められるため

現場打ちRCは、
壁厚・鉄筋量・開口寸法・中庭設計・地下空間の音環境などを
“建てる家ごとに最適化できる”。

つまり、

  • 外観・内観の造形自由度
  • 静けさ(遮音/共振の抑制)
  • 生活導線・光と景色の取り込み
  • プライバシー性

これらを意図通りに設計できるのは現場打ちRC


では、PC(プレキャスト)は高級住宅に向かないのか?

向かない…というより、“適する場面が限定される”

PC工法が向くRC住宅の条件

  • 敷地が広く、プランが標準形状で成立する
  • 外部とのプライバシー調整を「壁」でなく「敷地スケール」で確保できる
  • 開口設計・間取りに大きな個性を求めない
  • ブランド住宅の「均一で安定した仕上がり」に価値を置く

つまり、

“構造そのものを個性にしないRC住宅” ならPCは成立する。

例を挙げると分かりやすい:

住宅タイプPC工法が向く?理由
巨大な郊外邸宅(敷地が広い)ボリュームをシンプルに成立させやすい
箱型のミニマルデザイン住宅壁・床パネルで成立しやすい
仕様均一の複数棟分譲RC住宅パネル標準化でコストと期間が最適化
都市部の狭小地・変形地住宅パネル寸法が敷地計画に合わない
中庭・地下・光井戸設計の邸宅空間操作がPCでは制限される

高級住宅で“現場打ちRC”が支持される決定的な理由

高級住宅に求められるのは 「唯一性 × 静けさ × 長期資産性」

唯一性(Design Uniqueness)

高級住宅は**「土地 × 建主 × 建築家」の関係で成立する。
→ PCは
標準寸法から外れると成立しない**。

静けさ(Acoustic Comfort)

壁式現場打ちRCは、遮音・残響・振動吸収性でPCより上
→ “音のストレスがゼロに近い家”を作れる。

長期資産性

現場打ちは、
鉄筋量 / 壁厚 / スラブ厚 / 打設ブロック計画を住宅用途に最適化できる。
劣化しにくく、将来価値が落ちにくい。

つまり、

“唯一無二の邸宅”を成立させる設計自由度と、
“深い静けさ”を担保できるのは、現場打ちRCだけ。


まとめ

観点PC工法現場打ちRC造
設計自由度低い(標準仕様)非常に高い(土地と建主に合わせる)
遮音・静けさ良い〜普通最も静か(壁一体構造)
高級住宅との相性条件付きで成立基本的に最適解
求める暮らし均質・機能優先唯一性・質感・静寂性・空間体験

言い換えると

  • 「標準化された安心感」→ PC
  • 「建築家とつくる唯一の邸宅」→ 現場打ちRC